-For あさみ様-


[1]


 初めて見た時その人は。

 雨の中。高いバーの上を楽々飛んでいた。

 それはとても綺麗で……、幻想的で。

 俺は。

 自分も濡れている事を忘れてただ見詰めていた。




 そしてその光景は今も忘れていない。

 あの瞬間。眼に焼き付いてしまった。




  **********


「俺も行くっ!!」

 握り拳をそれこそ強く握り締め、保(やす)君の顔を覗き込んでそう言い切れば、

「行くって……。買い物に行くのとは訳が違うんだよ? 朋(とも)」

 10cm以上下の目線から見上げられ呆れた様に言われた。

「田舎の全寮制の高校に入るんだよ?」

 そしてゆっくり念を押す様に言われた。

 判ってるよぉ〜。だから俺も付いて行くって言ってるのに。

「朋兄ィは昔っから保君の後を付いて廻りたがったもんね」

 偉そうに言うのは俺の1個下の妹、香乃架(かのか)だ。

 そしてその直ぐ下の妹、加野依(かのえ)が、

「でもさぁ〜。田舎の男子校の全寮制なんてヤバいよねぇ〜」

 意味不明な事を言ってくる。

「ヤバい?」

 訊き返した俺に答えたのは加野依の双子の妹、果埜実(かのみ)だ。

「ヤバい。ヤバい! 特に保君みたいな美少年は」

 そして双子が声を揃えて。

「先輩男子に喰われちゃう!」

「俺っ! 絶対保君と同じ高校に行くっっ!!」

 断言した俺に保君は、

「朋ぉ〜〜〜」

 と情けない声で俺の名を呼んだだけだった。


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