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「神凪(かんなぎ)ィ〜。廊下は走るなよっ。オニガワラに見付かったら如何すんだよ?」

 同じ陸上部の新人で、短距離同士だった為仲良くなった大辺(おおべ)が廊下を爆走してる俺を見かねて声を掛けてくれたが、今の俺はそれどころではない。一刻も早く食堂に行かねばならないのだ。

「そん時考える!!」

「遅いよそれじゃ」

 俺の背中からまだ何か言ってきた大辺を無視り、食堂へ一目散と疾走した。

 いや別に腹が空いて堪らない……。実際減ってるけど。とか、早く行かないと目的の料理が手に入らない、んだけど。とかでは無く、俺は焦っていた。




 ド田舎の全寮制の男子校に入学して早や1ヶ月。

 保君を追ってこの学校に入ると言った俺を家族は止めるどころか。




『まあ。それも経験だな。なあ母さん?』

 と親父が新聞から顔を上げずに言えば、

『そうね。どうせ家に居たってよく食べてお金も掛かるし、180超えたうすらでかいのが一人減れば我が家も大分広く感じるものね』

 とお袋がテレビから眼を離さず答える。

『ヤッター! 兄ちゃんが居なくなったら俺達にも一部屋ずつ貰えんの?』

『ヤッリー! 俺の友達なんて皆自分の部屋持ってんのにさ、俺らだけだったもんな。自分の部屋が無いの』

 そして下の弟二人が歓喜した。

 大家族って、こんなもんか? 我が家だけな気もするが。唯一祖父ちゃんと祖母ちゃんだけが、

『嫌な事があったら何時でも帰っておいで』

 と優しい言葉で見送ってくれた。




 そうやってやってきたド田舎の全寮制。

 最初は携帯も通じない田舎っぷり、というか山奥の学校に吃驚はしたけど。元々大家族の家に生まれ住んで来た俺は結構集団生活にスンナリ馴染んだ方だと思う。

 朝も夜も大勢の人の中で飯を喰ったり、朝顔を洗う為洗面場で並ぶ事も苦じゃない。

 寧ろ毎日友達に囲まれて楽しい。

 小さい頃から何時も一緒に居た保君とも同じ部屋になれて、殆ど我が家といる時と変わらないくらいリラックスしていると言っていい。

 いや。煩い妹達の居ない生活は快適と言ってもいいくらいだ。

 只一つの事を覗いては。


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