[嫌い!嫌い!は大っ嫌い!! 番外篇]


「それすらも日々の中で… 1」




 それは本当に何気なく目に付いたのだけど……。




 何時もニコニコしてる飯島先輩だけど、実はそれは結構演技で底意地の悪い笑顔とか持っていて、俺だけに向けてきたりする。

 最初の頃はそれが悔しくって。なんでか判んないけど、悲しくって……。

 俺だけが嫌われてるのかと思ったから。




 でもそれは違って、俺だけが特別だって、意味を知ったら嬉しかった。

 なんで嬉しかったのかは未だによく判んないんだけど……。




 だけど今日、気が付いた。

 飯島先輩の“特別”がもう一人居る事を―――。






「げぇっ、マジでぇ〜」

「マジ、マジ。つーか、何お前……」

 昼の休憩時間に食堂に行こうとして目撃してしまった。

 その光景は。

 飯島先輩と小城先輩が楽しそうに喋っていた。

 そりゃあ、飯島先輩と小城先輩は同じ学年だし。特に飯島先輩は、こう言っては何だが、外面がいい。

 だけど……。少し違うんだ。

 何時もの、あの表面的笑顔と。

 楽しそうに笑っていた飯島先輩がふと何かに気付いて手を上げた。

 その手は、小城先輩の髪を触って……。






「朋ってば……。如何したの? ボォーッとして」

 俺の右隣でB定食を食べていた保君が心配そうに訊いてきた。

「そういえば全然進んでないじゃん」

 これは向かいに座ってる大辺の科白。

「食欲ないんか?」

 で、その隣、向って大辺の右隣に秀由が居て、

「残すなら俺が喰ってやるよ?」

 これは俺の左隣の藤木の科白だ。

「藤木ぃ〜〜〜」

 最後に呆れた様に藤木の名を呼んだのは、保君の向かいに座っていた屋久だ。

 俺ってばあの後。飯島先輩が小城先輩の髪を触った瞬間、何故か無意識にダッシュをかけちまって、気が付いたら食堂で皆とお昼を食べていた。

 って、何やってんだ? 俺ぇ〜。

 自分の行動に説明が出来ない。

 大体なんで走ったりしたんだ?

 でも如何しても、“あの場”に居たくなかったんだ。

 なんで、だろ?

「保良〜。今日はB定食食べてるのか?」

 俺が苦手な“考え事”をしている最中に、その原因となった奴がやってきた。

 原因はニコニコと保君と喋っているが、なんだろう。さっき見た小城先輩と一緒に居た時みたいなモヤモヤやイライラは感じない。

 飯島先輩は、黙って見詰めてる俺の視線に気が付いたかの様に俺の方を見て、

「今日はやけに大人しいな。番犬」

 俺のおでこを軽く弾いた。

 なんでかなぁ〜。

 急に悲しくなって、気が付いたら走り出していた。

「朋っ!?」

 保君の声と、

「あっ、おい!」

 飯島先輩の声を背に。

「ねぇ? 喰ってもいいのぉ〜!?」

 藤木と、

「だからお前はもうちょっと校内No.1の美少年だっていう、自覚を持てってば!」

 大辺の声も聞こえていた。


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