「それすらも日々の中で… 2」




「はいっ、すっとぉ〜ぷ!」

 一応これでも陸上部の短距離選手なのに、陸上部高飛びの花形選手の飯島先輩に裏庭であっさり掴まって、手首を思いっ切り握られてしまう。

「いっ、痛いってば!」

「そう?」

 ふつうさぁ、こう言ったら直ぐ離してくれると思わない?

 けど、其処が飯島先輩の底意地の悪い処で、益々強く握られる。

「いっつ、痛いっ! 痛いっ! 何!?」

「“何”じゃないよ。こっちが“何”なんだけどね。何、人の顔見て逃げてるんだい?」

「そ、それは……」

 自分でも自分の行動に説明がつかないのに問い詰められても困る。

 そんな俺を飯島先輩は判ってくれる様子はなく、益々手首を握る力を籠められた。

「いっ、たぁーいっ! ……先輩ってぇ、小城先輩の事好きなの!?」

 って、あれ? 何言ってんだ? 俺。

 なんの勢いで出たのか知らないが、自分の言った科白に吃驚していると、それ以上に吃驚して硬直している先輩がいた。

 ってぇ〜、マジなのぉ〜!?

「おっどろいたぁ〜。超激鈍お莫迦に気付かれるとは思わなかった」

 ちょっと待ってよ。

 その“超激鈍お莫迦”って、俺の事?

 その余りにも失礼な言葉に不機嫌も露に睨み付けても、先輩は一向に気にした素振りも見せない。

 それどころか。

「なんでそういう事には気付くのに肝心な事は気付かないんだか……」

 と大袈裟な溜息混じりで言われる。

って。

「マジで小城先輩の事、好きなのぉ〜!?」

 思わず大声が出ちまった俺に先輩は顔を顰めながら、

「好き“だった”の。可愛かったからね、彼。俺って如何もからかいがいのある奴に弱いみたいでさ」

 あっさりと認める。

 って、か、可愛いって……。小城先輩が!? カッコイイなら判るけど。

「とはいえ、番犬を敵に回してまで手に入れたいとは思わなかったけどね」

 番犬? 小城先輩に番犬なんか居るの?小城先輩自身がドーベルマンかなんかに見えるんですけどぉ〜。

 あれ? でもちょっと待ってよ。

 飯島先輩は俺の事をよく“保君の番犬”って言う。

「それに今は……。今度こそ手に入れたい奴が居るしね」

 飯島先輩が余りにも優しそうな顔でそう言うから思わず、

「それって保君?」

 って、訊いてしまった。

“保君の番犬”の俺と戦ってでも手に入れたい、のかなぁ。

 俺の言葉に飯島先輩が珍しく目を見開く。

 そして次の瞬間には不機嫌そうに細められたかと思うと、ビキッ! っていうくらいの音がするデコピンを俺に喰らわした。

「いっ…………」

 瞬間、痛みで声も出ない。

「あに、すんだよっ!」

 やっと涙目で反撃を返ししようとしたら、更に怒りモードの先輩に睨まれてビビってしまった。

 つーか、何ぃ〜?

「お前はお莫迦な処が可愛いけれど、あんましお莫迦過ぎると、腹が立つ!」

 それだけを言うと先輩は俺に背を向け行ってしまった。

 って何だよ、それぇっ!?

 意味不明だつーのっ!




 結局何もかもが消化不良のまま、俺は独り裏庭で飯島先輩に文句を叫んでいた。

 当然その文句は届かない。

 結局、余りの空しさにガックリと肩をおろした時、俺のお腹がグウゥ〜と鳴いた。


-END-


□なんという事はない番外篇。以前に10万打感謝で書いたSSの一つです。再アップしようかどうか迷ったけど、誰か読んで下さった方への暇潰しにでもなれば幸いです。本編が完結してない頃に書いたので、告白前です。飯島と小城が何となく仲良し篇でした(笑)

2005/10/9 再アップ



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