[1]


「惟弦(いつる)ぅー。ほぉ〜ら、高い高い」

「もっと。ねぇ〜にいちゃ、もっとぉー」

「何? もっと高い高いして欲しいの?」

「んっ、もっとぉー。あっこまで」

「お空まで? ん〜〜〜。それは兄ちゃんでも届くかなぁ……」




 俺には大好きな兄が居た―――。




 死んだ人間の代わりは誰にも出来ない。

 例え同じ血を引いていても。

 同じ遺伝子を持っていても。

 同じものにはなれないんだ。


□□仁科惟弦□□


「九條。終わったぞ」

 朝っぱらから喧嘩を吹っ掛けて来た、ある意味健全な少年達を地面に叩きのめし九條の方を見ると、

「んん〜〜〜。んじゃ、そろそろ行く?」

 九條が両手を天に掲げる様に伸ばして、でかい欠伸をした。

「って、お前。本気で寝てたのか?」

「だって、お前にしちゃぁ〜時間掛かり過ぎじゃねぇ?」

 九條が、おそらくこれはこいつの癖なんだろう。小首を傾げて俺を見上げる。

 その姿は喧嘩に明け暮れ、この辺一帯の不良共から“キチ○イ・リュウ”と言われてるとは思えない程可愛い。

 男にしては色白の肌に奴のサラサラの髪が映えている。

 小首を傾げると、サラサラと音がしそうな程素直に傾げた方に髪が流れていく。

 って、何時までも男に見蕩れて如何する!? 俺。

「こんなもんだろ」

 そう素っ気無く返して九條の手から喧嘩をする為預けておいた自分の鞄を奪い、先に立って歩いて行く。

「そぉ〜だぁっけぇ〜?」

 九條は俺の態度に疑問も持たずに、大欠伸をしながら俺の後ろに着いて来た。

 というか、自分が美少年だって自覚あんのか? 九條。


≪BACK  NEXT≫
≪TOP