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 別に何に不満があるんだ? って訊かれたら、明確に言葉に出来なかった日々。

 俺達は喧嘩に明け暮れていた。

 俺は九條とは違い一方的に売られるばかりだ。

 図体がでかい。態度が生意気だ。目付きが悪い。




 だけど確かに、喧嘩する事で自分の中にある言葉に出来ないモヤモヤを発散していたのも事実だ。




 モヤモヤしていた。

 それは俺が兄貴の代わりを出来ないから?

 それとも……。




 俺には良く出来た兄貴が居た。




 俺と兄貴は、実は15歳も年が離れている。

 俺達のお袋が身体の弱い人で、俺達の間に流産を2回しているそうなんだ。

 俺がお腹に出来た時も医者は反対したらしいが、どちらにせよ子供を産むチャンスはこれで最後だと思ったお袋は如何しても産みたい。と言って、俺を産んでくれた。

 その所為か如何か知らないが、小さい頃は甘やかされ捲った。

 お袋は俺を産んだ後入院生活を余儀無くされたが、親父と兄貴が一心に俺を可愛がってくれた。

 今の姿から想像も付かないかも知れないが、俺は小さい頃は女の子にしか見えなかった。

 クリクリの零れそうな程の大きな瞳とポチャっとした赤ん坊独特の丸みのある顔。

 おまけに色白だったので赤が良く映えると、赤い可愛い服ばかり着せられて、近所の人は完璧俺の事を女の子だと思っていた。

 そんな俺に人生の転機がきたのは、最初は多分親父の死、だんたんだろう。

 俺が2歳の時親父が亡くなった。

 消防士だった親父が仕事中、俺と同じ歳の赤ん坊を助け様として亡くなった。と聞いたのは、随分後の事だ。

 それ以降、お袋が余計にベッドから起き上がれなくなった事を知ったのも。

 どちらにせよ、当時2歳の俺が理解出来る筈もなく、気が付けば兄貴は俺の父親であり母親であった。




『にいちゃ、にいちゃ。だいすきぃ〜』

『僕も惟弦の事が大好きだよ』




 本当に大好きだったんだ。




 だけどそれすらも奪われた。




 人間はなんて脆い生き物だろう……。


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