[1] あれはいくつの時だったのだろう……。 産まれて初めて連れていって貰った遊園地で起こった出来事だった。 □□仁科惟弦□□ 「せんせぇー。表に変な子が居るよ」 「変な子?」 俺の祖父さんがやってる古武術の道場を一週間に一回だけ無料で近所の子供達に解放している。 無料の所為か道場には多くの小学生がやって来ていて、俺はそいつらの先生をやらされている。 それが一人暮らしをしたいと言った俺への祖父さんが出した条件だったから。 実際。俺の教育費やその他諸々と掛かる金は祖父さんが出してくれている。 何だかんだ言ったって、ついこの間まで中学生だった餓鬼が自活なんてやっていける訳がない。 だから面倒臭いとは思いつつ、大人しく従ってる。 最近は古武術も流行なのかネットやNHKの番組でやっていたのを見掛けたが、でもやはり同じお金を払うなら塾や英語教室という親が多いのも事実だ。 知ってる道場も経営不振だと嘆いていたし。 でも俺の祖父さんが嘆いているのは勉強とゲームしかしない子が増えて、他人とコミュニケーションが取れない子が増えている事だ。 確かに古武術を習ったからといってコミュニケーションが取れる子に育つとは限らないけど、少なくとも最初に“礼に始まり礼に終わる”を徹底的に教え込まれるから、最初はまともに声が出なかった子も今では信じられないくらい大きな声で挨拶しながら道場に入ってくる。 俺も鬱陶しい反面、餓鬼共に先生と慕われる事に悪い気はしていなかった。 「うん。道場の前でずっと『兄ちゃん』『兄ちゃん』って呼んでいるんだ」 「え?」 道場に来ている子にそう言われ表に出てみれば、リュックを背負った3歳くらいの男の子がまるで“あの時の俺の様に”不安げに佇んでいた。 「兄ちゃん。どぉこぉ〜」 そうだ。あの時の俺もこれくらいの歳だった様な気がする。 兄貴が俺を遊園地に連れて行ってくれたんだ。 見る物乗る物が珍しくて大ハシャギをしていたら、兄貴と逸れてしまった。 どうしていいのか判らなくなった俺は、兎に角来た方向に戻っていけば兄貴に会えると思って、必死に来た道を歩いていったのを思い出した。 ≪BACK NEXT≫ ≪TOP |