[完]


 一体何をやってんだか。俺。

 でも。

 あいつが余りにも寒そうに丸まっていたから。

「ああっ! もう、考えんの止め! 止めっ!!」

 思わず出た声が予想外に大きかった事に自分でも吃驚しつつ、屋上から下りる階段の途中だった為、誰も居なかった事に一安心する。

 ってゆうかさ。ほんと……、何やってんだか。俺。


□□仁科惟弦□□


『惟弦。惟弦。大好きだよ』

『にいちゃ、すきぃ〜』




 あの時の様に誰か俺を認めて。




 俺の事を好きだと言って。




 誰の代わりが出来なくても。




 誰の代わりでもない俺を好きだと言って。




 そしたら俺も“その人”しか見ないから。




 誰か俺を。






「クッ、シュン! あっ……」

 自分のクシャミで目が覚めた。

 というか俺、空を眺めてるうちに寝ちまった様だ。

 ふと見ると俺の身体には見覚えの無いジャケットが掛けられている。

 俺のは確かに教室に置いてきた。

 見るとジャケットはまだ新しい。裏ポケットの処にあるネーム刺繍も読み取れた。

『世良』

「って何であいつのジャケットが此処にあんだよっ!?」

 入学式の時のひと悶着を思い出し、疑問と不愉快からおもわず顔を顰めた俺の耳に、昼休憩の終わりを告げるチャイムが聞こえてきた。


-END-


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