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 …………………………。

 今考えてもなんてくだらない。

 我ながら自分のアホさ加減に赤面ものだが。あの時は仕方なかった。

 タイミングが最悪だったのだ。




 1年間付き合ってきた彼女が高校が別になると判った時、『離れてたら絶対私の事を蔑ろにするでしょ』とか、『一嘉(かずよし)はもてるから絶対浮気する』と散々騒いで、俺にいろいろと約束事を決め付けたくせに。

“あの日”の前日。

『好きな人が出来たの。それに離れているとやっぱり何時か心変わりされそうで怖いんだもん』

 等と、ふざけた事を言って俺をふってくれた。

 だから入学式の日、苛々していたのは事実だ。

 その所為で普段なら許せる事も許せなかったし、目の前の整った甘い面構えの男が、そのくせバランスのとれた身体を持つ男が、元カノの新しい男とダブって見えて思わず喧嘩を売ってしまった。

 仁科自身はそれ程嫌いなタイプじゃない。




『先生。九條は何もしていません。喧嘩を買ったのは俺だけです』




 寧ろその見掛けに相応しい、堂々とした態度は好感が持てる。

 出会い方さえ間違っていなければ、今頃友人として連れ立っていたかもしれない。

 まっ、今となっては如何でもいい事だが。

 とはいえ、此処で飯を喰う気はしなくなった。

 こいつだって起きて一番に俺の顔は見たくないだろうし。

 かといって、余りにも気持ち良さそうに寝てるこいつを態々起こす気にもなれない。

 仕方ねぇ。此処は譲るか。

 そう思い立ち上がった瞬間。

「クッシュ…」

 仁科がその図体に似合わない小さなクシャミをした。

「…………………………」

 見ると仁科は制服のジャケットも羽織らず、コンクリの上に直に丸まって寝ている。

 まあ、この図体でか弱いとは思えねぇーが。

 いくら良い天気はいえ、4月末の外はまだ肌寒い。

 ったく、仕方ねぇ。

 俺は自分のジャケットを脱ぎ、仁科に掛けてやった。


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