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□□仁科惟弦□□


「悪りぃ。世良の奴呼んでくんない?」

 昼休憩を利用して世良のクラスに行き、戸口に居る奴に声を掛けたら相手は一瞬顔を引き攣らせ大慌てで自分の教室の中に入っていく。

「た…、大変だぁ。仁科が乗り込んで来た」

 おい。

 どんな言われ方だと思いながら戸口で待っていると、仏頂面の世良が顔を覗かした。

 世良は黙って俺の前に立った。

 って、俺も大抵でかい男だと思ったが、こいつも高1とは思えないくらいでかい。

 そして、男臭い。

 漆黒とでも言うべき少し長めの黒髪は、こいつの雰囲気に合っている。  

 何をする訳でもなく突っ立っているだけなのに、何となく眼を離せない雰囲気を醸し出すこいつは、はっきり言って男の俺から見れば目障りだ。

 とはいえ、今日は喧嘩を売りに来た訳ではない。

 まあ、仲良くしに来た訳でもないけどな。

 多分、こいつのであろう制服のジャケットを返しに来ただけなのだが、こんな状況では返すに返せねぇ。

 なんせ俺達を見ているのは世良のクラスの連中だけでなく、廊下を行く奴らもだ。

 そりゃあ、モロには見て来ないけどチラチラとこっちを伺ってるのは何となく判る。

 たくよぉ……。

「付き合えよ」

 場所を移動しようと俺が顎をしゃくって誘えば、世良も黙って俺に従った。


□□世良一嘉□□


 屋上に着いた途端、

「これ……、お前んだろ?」

 ムスッとした表情で仁科が俺のジャケットを差し出す。

 まあ、俺に対する第一印象は最悪だったからニコニコしろって言う方が無理だとは思うが。

「……どういうつもりで?」

「何が?」

「………………」

 質問を質問で返したら押し黙られた。

 そして暫くしてから、

「まっ、いいや」

 俺から視線を逸らし、あらぬ方を見ながら仁科がそう言った。

 なんとなくだが、その態度が気に喰わない。

「いいやって、何がいいんだよ」

「いいもんはいいんだよ」

「だから何がっ!?」

 暫く睨み合っていた俺達だが、気が付けば同時に噴出していた。


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