[完]


「なぁ〜に、不毛な会話してんだか……」

 俺の科白に仁科がそれこそ呆れた様に、

「んなもん、出会った時からじゃねぇか」

 言って、笑いながら髪をかきあげた。

 確かに良い男だ。こいつ。

 自分を卑下する気は毛頭ないが、笑った顔の仁科は正直格好が良かった。

 初めて会った時は切れた座った眼しか見てなかったけど、こいつの眼って綺麗な二重なんだ。

 それが警戒心皆無って感じで笑うと、ちょっと大型犬の様な感じがする。

 女には受けるだろう。

 男の俺は面白くないが。

 それからはどちらも口を開く事なく屋上のコンクリの上に座っていた。

 仁科は時々空を見上げていた。




 昼休憩が終わるチャイムで仁科が立ち上がる。

 それにつられて俺も立ち上がったら、仁科が悪戯っ子みたいな笑顔を浮かべた。

「あんだよ」

「いやぁ〜……。ただ今頃下の連中は、俺らが殴り合いの喧嘩でもしてるって想像してんのかなぁって、思っただけだ」

 仁科が余りにも楽しそうに笑うので、つい俺もつられて笑う。

「なんならご期待に副って2,3発殴り合っとく?」

 俺の科白に仁科が本当に渋い顔をして、

「止めとく」

 と言った。

 その顔を見て大笑いした俺に、仁科が益々渋い顔をする。






 この時は思ってもみなかった。

 これが俺と仁科の長い付き合いの始まりだって。


-END-


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