[1] 愛って何? 子供の頃は確実に俺を愛してくれた人が居た。 でも今は誰も俺の名前を呼んでくれない。 愛って無くなるものなのか? 「こら、惟弦! 人参も食べなきゃ駄目だよ」 「うぅ〜〜〜」 「人参食べると頭が良くなるんだよ。今日は母さんの処に行くんだろ? 『人参食べたよぉ〜』って報告して、母さんに褒めて貰いたくないの?」 「人参食べる!」 「いい子だねぇ。惟弦。大好きだよ」 「いつるも兄ちゃ、好き」 2歳の時親父が亡くなって、病気がちで殆ど病院生活のお袋に代わって15歳上の兄が俺を育ててくれた。 その兄すらも奪われたのは小学2年の時だった。 そのショックでお袋は記憶をリセットした。一番幸せな時で。 「こんにちは。ねぇ、あなた洋(ひろし)さん見掛けなかったかしら? 最近ちっとも会いに来てくれないの」 病院の中庭で車椅子に座ったお袋が来る筈の無い親父を待つ。 「……良い天気だし散歩しませんか? 俺、押しますよ」 「ありがとう。でもあなたどなた?」 「……洋さんの友達です」 「そう」 お袋は戻ってしまった。一番幸せな時に。 親父と出逢った頃に。俺達を産む前の少女の頃に。 お袋の親父。所謂俺の祖父ちゃんが兄さんが亡くなった後俺を引き取り育ててくれたが、あまり上手くいかなかった。 元々親父とお袋の結婚を反対していた人だ。男手一つで病弱なお袋を育ててきたのに、こんな目に遭わせてときっと怒っているのだろう。 中学の卒業と同時に産まれた家に帰りたいと言っても何も言われなかった。 誰も俺を必要としてくれない。 誰か俺の名を呼んで。 俺の存在を認めて。 俺が必要だって言って。 ≪BACK NEXT≫ ≪TOP |