[完] 「やっぱ先約が居たか」 入学式の時殴り合いをしかけた世良が屋上で飯を喰っていた俺を見て苦笑する。 周りの人間は入学式の時の印象が余程強烈だったのか、俺と世良が何時も殴り合いをしてる程仲が悪いと思っている。 だけど本当は一度も殴り合った事はない。殴り掛けただけで。 別にいがみ合ってもいない。仲良くもないけど。 精々廊下で会った時に目で挨拶し合うくらいだ。 尤もそれが周りの奴らにはメンチを切り合ってる風に見えるのだとか。 「なんだ。お前もコンビニ弁当か。ここの食堂ってある意味凄いよな。喰い盛りの俺らに不味いと思わすなんてさ」 天気が良い所為か、それとも人目が無い所為か世良は気安く俺に話し掛けながら近くに座ってパンの袋を開けた。 別に俺は料理を作るのは嫌いじゃない。寧ろ得意と言っていい。 でも自分の為に朝から弁当を作る気にはなれない。 九條が喰いたいと言えば作ってやってもいいのだが、あいつは冷めた飯が嫌いだと言っていたからなぁ〜。 そう思いながらお互い何も喋らずに黙々と昼飯を喰っていた。 ふと気付くと世良が俺の弁当箱を覗き込み、 「小さい子じゃないんだから人参も喰えよ。頭良くなれねぇーぞ」 と言った。 「な、なんだよ。俺何か変な事言ったか?」 「いや……」 自分でも気付かないうちに俺は世良の顔をマジマジと見詰めていた様だ。 世良は居心地が悪そうにブスけて、食べ終わったパンの袋を丸めた。 人の心は不思議だ。 何がきっかけで他人を好きになるか判らない。 だってこの時の俺自身だって気付いていなかったのだから。 愛って何? 子供の頃は知っていた筈なんだ。 何時か思い出す時があるのかなぁ〜。 -END- ≪BACK ≪目次 ≪TOP |