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 仁科惟弦16歳。高1。

 中学時代は喧嘩上等でならした俺だが、実は子供の頃は兄ちゃんっ子で甘えたで、怖がりで泣き虫だった。

 三つ子の魂ナントヤラ……。

 え? 今時の高校生がそんな事言わない?

 まあ俺は祖父さんに育てて貰ったからね。

 古武術の道場を開いている祖父さんが、兄さんが亡くなった後ベソベソ泣いてる俺を見兼ねて無理矢理道場に引き摺り込まれ鍛えられた。




『お前がそんな風だから、お前の母親の身体は何時まで経っても良くならないんだ!』




 そう言われるのが厭で、でも簡単には泣き癖は取れなくて、何時もビービー泣きながら道場で鍛えられていたと思う。

 今の俺の姿からは多分誰も想像付かないと思うけどね。

 192,6cm。こんな図体のでかい俺が“ここから逃げ出したい”っと言ったら、皆どんな顔をするだろう。

 呆れる? 馬鹿にする? 嘲笑う?

「やっぱ団体戦は駄目かぁ〜……。この後の仁科の個人戦だけか。うちが勝てるのは」

「まあ、いいじゃん。相手は柔道で全国に名の知れたとこなんだしさ。勝てなくても当たり前だよ。それより仁科が勝ってくれたら凄くねぇ?」

「仁科なら大丈夫さ。頑張れよ」

「相手の高校の鼻あかしてやれ!」

 柔道部の連中は気楽に俺の肩や背中を叩いていく。

 俺の心情も知らないで。

 俺はそんなに強くないんだよ。

 父さんの代わりも兄さんの代わりも出来なかった奴なのに。

 そう俺は、柔道部の連中に頼み込まれて練習試合の個人戦に出る事になったのだ。

 古武術とはその名の通り、古の体術や剣術などを教え伝えていくものだ。

 俺も道と名の付く武術は一応一通り祖父さんから習った。

 けど人間得手不得手がある。

 俺は柔道がイマイチ苦手だ。

 身体が大きくそれなりに力もある所為か、柔道はそれこそ技とタイミングだと頭で判っていても、上手い相手だと技が掛からず焦って力技に及んでしまう。

 逆に空手は好きだ。

 上手く言えないのだが、自分に合ってると思う。

 喧嘩の時でも試合の時でも自分より強い相手はなんとなく判る。肌が感じるのだ。

 相手が自分より強い。と感じた瞬間、柔道だと気負ってしまい、空手だと不思議と高揚してくる。

 勝つとか負けるとかじゃなく、相手の隙をついて蹴りが決まった時の爽快感は何物にも得がたい。


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