[完]


 俺、世良の前だけは何時もカッコイイ男でありたかったのに。

 恥かしくて顔が上げられない。

 そんな俺の前に世良が座り込み、俺の手の上に自分の手を重ねた。

「良く効くおまじない教えてやろうか?」

「おまじない?」

 俺の顔を覗き込む様にして悪戯っ子の様に笑った世良の顔が俺には凄く可愛く見えた。

 尤も他の奴らが見ると、この表情が気に入らない人間の抹殺の仕方を考えてる表情に見えるとか。

「いいかぁ〜。弱い自分がお前の中に居るって事は、一番強いお前も自分の中に居るんだよ。だから大丈夫! お前は誰にも負けねぇって」

「世良……」

「逃げ出したくなったら腹ん中で繰り返せよ。“俺ん中には誰にも負けない強い俺が居る”って」

 ……………………。

 世良がニッと笑って静かに立ち上がる。

 今まで俺は世良の事をずっと可愛い奴だって思ってきたけど。

「お前って……。格好良かったんだな」

 俺の言葉に世良がブスける。

「お前ぇ〜。今まで俺の事をどう思っていたんだ」

 可愛い。なんて言ったら、マジでここで一戦やり合いそうだ。

 その事には一切答えず、気合を入れるつもりで両頬を叩き、立ち上げる。

 そんな俺に肩を竦めつつも、

「おまじない利いたか?」

 と、世良が訊いてくる。

「ああ」

 とだけ答えて世良に背を向け、試合のある体育館に向う。

 だって、判っているから。

 世良が見守ってくれている事を。






『一番強い俺は自分の中に居る』


−END−


■付き合ってはいるけどエッチ未満の二人・・・。現在どっちが上になるか揉めている最中なんですよ(笑)
まあ、最終的に仁科が“世良を甘やかす”んですけどね。    2005/10/3  再アップ



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