あの頃は怖いもの等知らなかった。

 只お互いが傍に居ればそれだけで良かった。

 ずっと傍に居れると思っていたんだ。

 この気持ちは変わらない―――って。

 大人達から見たら下らない戯言かもしれないけど、本当に好きだったんだ。

 うんん。今もこの胸の中にある想いは変わってない。


[1]


◇◇天王寺羽須美◇◇


「おら、羽須美(はすみ)! さっさと起きないと襲っちまうぞ!」

 拓人(たくと)にそんな物騒な事を言われても、俺の目は一向に開いてくれる気配はない。

「んん、後5分。3分でもいいや」

「甘えてんじゃ、ねぇっ!」

 なんて、布団を剥がれたうえに背中まで蹴られたけど、ちょっとくらい甘やかしてくれてもいいと思うんだけど。だって俺たち恋人同士なんだからさ。

 ベッドの上に不貞腐れ気味に座り込んでいたら、拓人にちょこんと唇にキスされた。

「なっ、何すんだよっ!?」

 拓人のいきなりの行動に狼狽えつつも怒鳴ったら、

「そんな可愛い顔をする羽須美が悪い」

と恥ずかしげもなく言われた。

「お、お前っ、お前、絶対に変っ! 趣味悪過ぎ!」

 焦って怒鳴る俺に返ってくる言葉は「羽須美。可愛いぃ〜」だった。

 俺は拓人のこの言葉にガクッと首をたれた。

 こいつには羞恥心はないのか? それともこんな事くらいで照れる俺がおかしいのか?

 俺、天王寺羽須美(てんのうじ はすみ)15歳、中三。同じく15歳で中三の池坊拓人(いけのぼう たくと)は、なんと生まれる前からお互いの傍に居たという、究極の腐れ縁同士だ。それというのも、俺達の親父同士が幼馴染み同士なうえに、俺達のお袋同士が姉妹同士という、切っても切れない仲なんだ。

 誕生日ですら丸一日しか違わない俺達は、母親のお腹の中に居た時からお互いの傍に居た事になる。

 住んでるマンションも同じなら(階は違うが)、当然幼稚園から小学校、そして現在の中学校まで同じ。

 幼馴染みというよりは兄弟の様に、必ずどちらかの家で飯と風呂を済ませて夜は一緒に寝かせ付けられてきた仲だ。

 一緒に居るのが当たり前で、お互いの姿が見えないと泣いて捜し捲った時期もあった。

 そして気が付けば恋人同士になっていた。


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