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「いぃーっつっも思うんだけど、拓人って趣味悪いよね」

 俺が拓人の漕いでる自転車の荷台からそう言えば、

「何処が?」

 と拓人は平然と漕ぎながら訊いてくる。

「俺の事、可愛いとか言うし」

「だって可愛いじゃん」

 不機嫌に言った俺に対して返ってくる拓人の声は何処か笑いを含んでいる。

 って事は莫迦にしてるな。

「男の俺に可愛いなんておかしいだろ? 可愛いって言葉は3組の楠原みたいな奴に使えよ」

 隣のクラスに居る、校内の男子の間では人気1の女子の名前を出せば、拓人は少し考えてから、

「ああ、確かに楠原は可愛い」

 と、感嘆した。

 た、確かに楠原は可愛い。他の女子達には『良い子ぶってる』と不人気だが、男子達にはやはり正統派美少女は大人気だ。

 正直俺だって楠原は可愛いと思う。

 楠原から『付き合って下さい』と告られたら(告られないとは思うけどさ)正直一瞬惑っちゃうと思う。

 それが男心だと判っていても、拓人の口から言われると何となく面白くない。

 勝手な言い分だとは判っているけどさ。

 不貞腐れて押し黙った俺の目の前の背中が小刻みに震えてる。

「な、何だよぉ〜」

 俺が拓人に不満気に声を掛ければ、

「そういう処が可愛いんだよ。羽須美は」

 と明るく返される。

 そういう処ってどういう処なんだよ。

 そう訊く前に「ホント、羽須美はヤキモチ妬きなんだから」と言われて、拓人の背中を思いっ切り叩いた。


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