[11] 「でっ? 朋弘は夏休みは実家に帰るのか?」 甘い餡が掛かった特大オムライスを前にニコニコしていたら行き成り訊かれた。 というか、何時の間にか呼び方が“朋弘”になってんじゃん。 なんでだー? と飯島賢を睨んでいたら、 「帰らないのか?」 と訊かれる。 「何処に?」 と訊き直した俺に飯島賢が呆れた様に溜息を吐く。 「人の話を聞いてないな。お前は……。巨大オムライスに涎を垂らしてるからだよ。夏休みは帰るのかって、訊いてるんだよ」 「あっ、そうか。来月には夏休みに入るんだ」 寮生活が始まったらもっと家が恋しくて週末とかには家に帰るかと思っていたが、俺には寮生活があっていた様で家の事など忘れ、結局ゴールデンウィークも帰らなかった。 保君も帰ると言い出さないのが原因の一つかもしれないけど。 その所為でこの間から寮に妹達からヤイのヤイのと文句を言って来る電話が掛かってくる。 「うぅ〜〜〜ん。流石に帰らないと妹達に怒られそう」 「妹が居るのか?」 「うん。3人。ついでに弟は2人」 「凄いな。それは」 飯島賢が感心した様に言う。 「そう言えばあん……い、飯島、先輩は帰るの?」 「今“あんた”と言い掛けたな?」 ジロッと睨まれてちょっと上目遣いに飯島賢を見ながら黙る。 そんな俺を見た飯島賢は何故か怒るでも文句を言う訳でもなく微かに笑った。 なんで? 「俺は帰らないよ。選手が練習をサボれる訳ないだろ」 あっ、厭味。 どうせ俺は陸上部短距離の中でも並よりちょっと上くらいだよ。 逃げ足は速いんだけどな。 いざタイムを取ったら大辺にだって全然敵わない。 「まっ、精々ママに甘えてくるんだな」 飯島賢の言い方に腹が立って睨んだら、何故か悲しそうな顔とかち合った。 だからなんで? ≪BACK NEXT≫ ≪目次 ≪TOP |