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 ガシャッ。とカップをテーブルの上に置いたら、

「すいませぇ〜ん。このウェイター、愛想が無いでぇ〜す」

 と右手をあげた飯島賢に言われた。

 本当に厭な奴だ。

「何しに来たんだよ」

「コーヒー飲みに来たに決まってんだろ。それとも何か? ここは注文すれば竹輪の天ぷらでも出してくれるのか?」

「竹輪の天ぷらが食べたきゃバスケ部の処に行けよ。グランドで屋台を出してる筈だよ」

 そう噛み付いてやったらムッとした飯島賢に、

「んな事お前に言われなくても知ってるって。クラス出し物と違って倶楽部出し物は毎年恒例なんだから、1年上の俺が知らない訳ないだろ」

 と逆に馬鹿にされたみたいに返された。

 だったら言うなよ。本当に厭味な奴。

 そう心の中で文句を言っていたら同じクラスのに、

「そういえば神凪。お化け屋敷に招待されてんだろ? 行って来いよ。今なら人手も余ってるし」

 と言われた。

「な、な、な、な、な、なんでそれを……」

「なんでって、大辺に頼まれたからさ。暇な時に俺のクラスに来てって伝言しといてって。って、何そんなに動揺してんだよ。お前」

「ど、動揺なんか……」

 言葉が上手く続かない。

 というか大辺。お前根回し良過ぎだって。

 そんな俺をじっと見ていた飯島賢が急に割り込んできた。

「朋弘。お前まさかお化けが怖いって訳じゃないよな?」

「まさかぁ〜。学校の文化祭でやるちゃちなお化け屋敷だぜ? 本当にお化け嫌いな奴でもビビらないって」

 そう笑いながら否定してくれたのは俺のクラスの奴で。俺はと言うと顔を引き攣らせ言葉も出なかった。

 そんな俺を見た飯島賢の笑顔が俺には後々も忘れられない。

 悪魔の微笑とはこんなのを言うんだ。って思ったもん。

「じゃあ、俺と行こうぜぇ〜。とぉ〜もぉ〜。お化け屋敷にさ」

 その満面の優しそうな笑顔に俺以外の周りの奴らは釘付けになっていた。


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