[17]


「うっぎゃぁーーーっ!」

「朋弘……」

「ぎゃぁああぁぁっっっーーー!!」

「朋……」

「いっやぁあぁぁーーーっ!」

「落ち着け! 朋!」

 痛いくらい腕を掴まれたかと思うと、グイッと引っ張り込まれる。

 次の瞬間には身体全体が温かく包まれた。

 耳元に聞こえるドクドクという音が俺のさっきまでの興奮を治めてくれる。

「落ち着けよ。お前の首に当たったのは只の蒟蒻だ」

 耳朶に落とされた静かな声が俺を現実に戻してくれた。

 蒟蒻?

 ってか、何この体勢。

 俺ってば飯島先輩の腕の中に抱き込まれてんじゃん。

 さっきまで怖くて怖くて怖くて、怖かったドキドキが何だか違うドキドキに摩り替わる。

 頬が熱くなって頭に血が上る。身体も熱くなって何だか落ち着かない。

「落ち着いたか?」

 優しく微笑みながら俺の顔を飯島賢が覗き込んでくるが、そんな事されたら余計に落ち着かなんいだってばぁ!

 大っ嫌いなお化け屋敷に入った早々、首筋に当たった生冷たい柔らかいものですっかりパニ喰った俺だけど、今度は違う意味でパニくりそうだ。

 な、なんで男に、それも大っ嫌いな飯島賢に抱き締められてドキドキしてんの!? 俺。

 甘酸っぱい様な良い香りが俺の鼻孔を擽る。

 これって確か飯島賢が何時も着けてる香水の香りだよな。

 何時もは『なんか気障ったらしい』と思っていた香りに包まれて、何だか凄く擽ったい。

 飯島賢が俺の背中を優しく擦ってくれる。

 その行為に落ち着く様な、それでいて落ち着かない様な、自分でもなんと言っていいのか判らない気分になってくる。

 一瞬、飯島賢に強くしがみ付きたい感情に駆られて、はっとして身を捩った。

「は、放してよ!」

「朋?」

 行き成り腕の中で暴れた俺に吃驚して、飯島賢が俺の身体を放す。

 その反動で後ろによろめき何かとぶつかった。

 つい習慣で振り向いたら長い髪で顔の殆どが隠れた―――。

「うっぎゃぁああああぁぁぁっ!!」




 後で聞いたんだけど、俺を脅そうとした幽霊役の奴の方が俺の悲鳴にビビッたらしい……。


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