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 文化祭の終わった校内は平常を取り戻した

 ただ俺だけが文化祭以降どうも可笑しい……。




「どうしたのさ。神凪。タイム落ち捲ってるじゃん」

 柔軟体操で何時も組む大辺が俺の背中を押しながら心配そうに訊いて来る。

「体調悪いの?」

 俺の背中から覆い被さる様にして訊く姿は、物凄く可愛い。

「うぅ〜ん……。まあ、こんな時もあるよ」

 確かに短距離のタイムは体調にも影響され易いけど、今の俺は何だか違うみたい。

 自分で言うのもなんだけど、気がここにないって感じ。

 何時もソワソワして何処か落ち着かないし。

 それに……。




「……………………」

 会話の内容までは聞き取れないけど、飯島先輩が同じ高飛びの選手の人と笑いながら喋ってる。

 あっ、今前髪を掻きあげた。

 助走に入る前に軽く首を左右に振るの、先輩の癖だよな。

 あ……、飛んだ―――。

 綺麗……。

 って、俺。先輩から目を離せないんだよ。

 目が勝手に先輩を追い掛けちゃってるんだよ!

 なんで!? どうして!?

「わぁああぁぁっ!」

「な、何!?」

 背中に乗ってった大辺を跳ね飛ばし、頭をワシャワシャと掻いた俺を、大辺は異様なものでも見る様に見た。

 何って……、俺が聞きたいよ。








「大辺ぇ〜。タオルちょうだい」

 今日もやっぱりタイムがガタガタで扱かれ捲って、やっと解放された。

 身体は疲れてるのに、ここ数日の自分でも訳の判らないモヤモヤの所為で水を飲んでる最中に発作的に頭から蛇口の処に突っ込んでしまった。

 普段でも充分鬱陶しい前髪が目の所に張り付いて前が見えない。

 隣に居るであろう大辺にパタパタと右手を振って催促したら、タオルを手に握らせてくれた。

「サンキュウ。大―――」

 顔を拭きながら上げたら、俺の直ぐ傍には大辺ではなく、飯島先輩が立っていた。

 それも腕を組んで仁王立ちで、何だか何処か怒りモードで。


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