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 飯島先輩が校内から居なくなった。




 あれ程俺の目に勝手に飛び込んでくる飯島先輩を急に見掛けなくなった。

 食堂でも、移動教室に向う渡り廊下や階段でも。

 見ようと思わなくても、探そうと思ってないのに勝手に人の視界に入ってきていたのに。

 極め付けは倶楽部にも出て来なくなって……。




「え? 先輩、実家に帰ってるの?」

「何だよ。お前あんだけ先輩と仲良かったのに知らなかったの?」

 そう言ったのは大辺だった。

 シャツの裾を持ち上げて顔の汗を拭くものだから、お腹丸出し。

 ついでに言うとヘソも下着も殆ど見えてんだけど。

 ほら、俺らってジーンズでもなんでもゆるゆるに穿いて、腰骨辺りまでズラしてるから、当然ハーフパンツもズレてる訳。

 そんな格好して。また幼馴染みの眼鏡の人に怒られるよ。

 俺、あいつイマイチ苦手なんだよね。同じ学年なのに、飯島先輩より偉そうで人を莫迦にしてる雰囲気が漂っていてさ。

 なんて事をボォーっと考えていた。

 そう。この時はまだ自分の気持ちなんてものに気付かなかったから。

 そっか。先輩居ないんだ。

 くらいにしか思っていなかったのかもしれない。

 別に寂しいとも思わなかったけど、清々したとも思っていなかった。

 処がそれが3日経ち、4日経ち、2年生は明日から修学旅行だというのに先輩は帰ってこない。

 そして俺の耳に“噂”が飛び込んできた。




「やっぱ飯島先輩。学校辞めるのかな……」

 え?

「お母さん亡くなられたんだって」

「確か離婚したお父さんってオーストラリアに住んでるとか言ってなかった?」

「俺はスイスだって聞いたぞ」

「俺はドイツ」

 ええっ!?


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