[23]


「行っといで。朋」

 そしてそのまま強引に背中を押されて部屋から閉め出された。

 一体なんなんだよ。

 でもこんな朝早くから、廊下に突っ立ってるのも凄い莫迦みたい。

 仕方なく、俺は保君に言われた通り、学校のグランドに向う。

 雨はこの間よりはちょっとキツイ感じだけど、やっぱり面倒臭い俺は傘を差さずにグランドまで向った。

 当然グランドは静まり返っていて……。

「………………」

“その人”は、ふわっと浮いたかと思ったら高いバーを飛び越えていた。

 何時か見た光景。

 忘れられない光景。

 呆然と見蕩れていた俺に気付いた“その人”が雨に濡れた髪を掻き揚げる。

「よっ、朋。阿呆面下げて何やってんだ?」

 綺麗な顔に似合わない意地悪な言葉。

 それも俺だけに。

 大っ嫌いな人。

 なのに俺の身体は勝手に駆け出して“その人”の胸に飛び込んでいた。

 というか“その人”こと、飯島先輩をマットの上に押し倒していた。

「お、お前なぁ〜……」

 俺を押し退ける様にして起き上がった飯島先輩がちょっとムッとしてる。

「あっ、ご、ご、ごめんなさい」

「ったくぅ〜。もうちょっと痩せろよ。デブ」

 慌てて謝った俺に飯島先輩はにべもない。

「ええっ!? そんなに太ってないよぉ〜」

「充分太ってるよ。だからいまいちタイムが伸びないんだろうが」

「ううぅ〜〜〜ぅ……」

「あんだ? 言いたい事あんなら言ってみろ?」

 やっぱりこの人は意地悪だ。

 意地悪だけど見蕩れちゃうんだ。俺を意地の悪い笑みで見詰めてるその顔に。

「お帰りなさい」

 今一番言いたい事を言ったら、飯島先輩の目がまん丸になった。


≪BACK  NEXT≫
≪目次
≪TOP