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「ひ、ひでぇ〜。これでも朝必死でセットすんだぞ!」

 本当は俺自身は余りお洒落とか興味が無い。出来たら髪形なんか五分刈りにしたいくらいだ。

 そんな俺の意見を何故か妹達と一緒に保君が喚いて止めるから、かなり鬱陶しい長い目の髪型で我慢している。

 特に前髪が俺にしては長い。眼に掛かってウザいので家ではよく前髪をちょん髷みたいに括っていたが、そのままコンビニに買い物に行く俺を見て、また保君と妹達が嘆く。

 だから毎朝苦労してセットする様にしてるのに、その苦労の結晶をこの男は!

「お前なんかそれで充分だよ。神凪朋弘。学年だけじゃなく倶楽部でも先輩の俺に向ってろくな言葉使いも出来ないお莫迦なお前が格好付けてるんじゃないよ」

「うっせぇ! バァ〜カッ! 先輩なら先輩らしくしろっていうの!!」

「と、朋……。止めなよ。拙いよ」

 俺がテーブル越しに身を乗り出して飯島賢の喧嘩を買っていると、保君が俺の制服のシャツの裾を引っ張った。

「また朋が睨まれちゃうんだよ」

 そして眉間に皺を寄せボソッと囁いてくる。

 そうなんだ。

 実はこの飯島賢という男は見掛けが格好良いだけじゃなく、成績も優秀で運動神経も抜群らしい。あっ、いや実際。我が陸上部高飛びの代表選手なんだけどさ。

 そんな出来過ぎだ! っていう感じの飯島賢はその事に驕る事なく、それどころか下級生が困ってたり同級生が手を焼いていたら必ず手を貸す、超出来過ぎたお人らしい。

 そんな彼は下級生・同級生だけではなく、上級生からも頼られ好かれている。

 そう。ファンクラブがあると噂されるくらいに。

 そんな彼にたてつくのは俺くらいのもので、実はかなり生意気な1年として飯島賢のファンから睨まれてるらしいのだ。

「けどぉ〜。保くぅ〜ん」

 俺は此処に保君を守りに来たのに。たかがファンクラブ。それも男相手に男のファンクラブ。

 それも、それも。男だけで構成された。

 そんな理解不能な奴らの為に退きたくない。


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