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 そんな俺の考えが保君には判ってしまったのか、

「いいから座るっ!!」

 強く言われてしまった。こうなったら子供の頃から俺は逆らえない。

 渋々無言で席に着く。

 そんな俺を飯島賢は目を細めて不満気に見た。

「ふぅ〜〜〜ん。神凪朋弘は近藤保良(こんどう やすよし)君の言う事なら何でも聞くんだぁ〜」

 な、なんだよ。この厭味な言い方。当然だろう。保君は俺にとって。

「そういえばお前ら従兄弟同士なんだってな。それにしちゃあ全然似てないなぁ」

 わ、悪かったな。どうせ俺は保君みたいに可愛くないよ! 身体も親に邪魔だってくらいでかく育っちゃったし。色も黒いし。頭も悪いし。

 俺が何故か飯島賢の言葉に軽い落ち込みを覚えていると、

「ええ本当に。僕も朋みたいに男らしい体型に格好良い顔。に産まれてきたかったんですけどね」

 保君がにっこり笑って飯島賢にそう言ってくれた。

「や、保君……」

 お世辞でも大好きな保君からそう言って貰うと単純な俺は直ぐに気を良くしてしまう。

 ニコニコと微笑んですっかり冷めてしまった御飯の茶碗に手を掛けた処で、席から立ち上がったまま
だった飯島賢が態々俺の方へと廻り込んで来た。

 な、なんだぁ?

 と思った俺の頭にそっと優しく大きな掌を乗せる。

 何故か俺の全身にえもいわれぬ痺れみたいなものが奔った。様な気がした。

 上目遣いに見上げると飯島賢はなんとも言えない表情をしていた。

 怒ってる様で、優しい眼?

 なんで? そんな眼。

 そう思って益々見詰めた瞬間、俺の髪は更にグシャグシャに掻き回された。

「あにすんだよっ!」

「お前が格好付けるなんて10年早いんだよっ! それで充分だろ?」

 そう言って、おそらく普段誰も見た事が無い人の悪い笑みを浮かべた。

 その人を何処か小莫迦にした様な、それでいて普段の飯島賢よりも全然子供っぽくって可愛い笑みに、何故か俺の心臓が早鐘の様に鳴る。

 って、どうしちまったんだよ? 俺。

 飯島賢が可愛いだなんて。

 おかしい! 絶対おかしいっ!!

 でも何故か頬が熱くなり顔が上げられない。


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