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「な、んで……、お前がいんだよ?」

 玄関のドアを開けると、名前だけは知っている。いや、何回か喋った事もあるんだけど。でも兎に角、親しくない男が立っていた。

 聡を背中に負ぶった状態で。

「聡!?」

「兄ちゃん」

 何時もは俺が近寄れば固まって近寄っても来ない聡が俺に抱き付いてくる。

 というか、聡に“兄ちゃん”と思われているなんて知らなかった。

 安堵感とくすぐったさと、心配させられた怒りからか凄い大声が出る。

「この馬鹿っ! 何やってんだ!! どうして皆から逸れんだよ。先生の言う事を聞いてなかったのかっ!?」

 俺の剣幕に押されて聡は今にも泣きそうだ。

 そんな俺を制止させたのは仁科だ。

「心配してたのは判るが、落ち着けよ。聡君の話も聞いてやれよ」

「話? 3歳児が何を話すんだよ」

 俺の言葉に仁科が顔を歪める。

「そういう言い方良くないぜ。こんなに小さくてもちゃんと良く見て考えて、行動してんだからさ」

 俺にそう言うと、聡に向って優しく言った。

「ほら。お兄ちゃんに渡すもんがあったんだろ?」

 そう言われて聡が恐る恐る俺の方に突き出した物がある。

「これぇ〜……。兄ちゃんと半分こ……」

 それは遠足のお菓子にと持たせた、聡の大好きな“じゃがりこ”だった。

「半分こって……。お前それ大好きじゃん。何時も俺がちょっとくれ、つっただけで嫌がって泣く癖に」

「半分こぉ〜……」

「………………」

「お弁当。美味しかったってさ」

 何も言えずに固まってる俺に仁科が切り出す。

「お兄ちゃんに作って貰ったお弁当、美味しかったんだって」

「って、あんなもん。出来合いのおかずを詰めただけだぜ」

 俺は料理が出来ないから、本来なら親父が聡の弁当を用意する筈が、仕事で帰って来れなくなってやむなく作ったものだ。

 おにぎりだけは仕方がないので握ったが、実に不細工な形だった。

「それでも聡君には美味しかったんだから、いいんじゃねぇの?」

 仁科が笑いながらそう言えば、聡がコックンって感じで頷いた。


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