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 一瞬なにを言われたのか判らなかった。

 マジマジと世良の顔を見てしまった俺に、世良が静かに話し出す。

「所謂他人家族って感じだ」


□□世良一嘉□□


 一体どうしたんだ? 俺は。

 今まで自分の家庭環境を人に話した事はない。

 それが例え付き合ってる女でもだ。

 なぜなら、聞いた奴が他の奴に面白おかしく話す以上に、同情されたり憐れまれたりするのが厭だったからだ。

 なのに仁科には自然に話してしまっている。

 何故?

 俺はこの男に何を求めているんだ?

「俺を産んだお袋はバツイチで癌に侵されていたんだ。親父がお袋にプロポーズしたのは、お袋の命があと3ヶ月も持たないって時だったんだよ」

「………………」

 仁科は何も言わず俺を見詰めている。

「信じられないだろう? 俺はその時には中1になっていたんだぜ。んなでかくて素直とは言いがたい餓鬼の面倒を見る為だけに結婚した様なもんじゃねぇーか」

「………………」

 やっぱり仁科は何も言わなくて、俺が一人で喋り続ける。

「聡だってそうだぜ。聡の母親っていうのが借金抱えて聡と心中しそうな所をたまたま親父が助けてやって、籍入れて借金返済した途端、聡を置いて蒸発しやがったんだ。なのに親父は相変らずマイペースで聡の面倒見て―――。つーか、信じられるか!? お人好しにも程があんだろ? 腹立つくらい馬鹿なんだよ!!」

「いんじゃねぇ」

「え?」

 興奮した俺と正反対に仁科の態度は普通だ。。

「いぃ〜んじゃねぇーの、って。そういう“家族”もありだろ」

「………………」

「なあ?」

 そう言って笑った顔は、何時か屋上で見た大型犬を思わせる笑顔だった。


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