[3]


 あんなに身体を鍛え上げ、頑丈だった親父が。

 あんなに勉強だけでなくスポーツや武術や格闘技が得意で、行く行くはお袋の親父、要するに祖父ちゃんの道場を継ぐとまで言われていた兄貴が。

 一瞬でこの世に存在しなくなる。




 兄貴の死後、益々やつれていくお袋を見るに見かねて、祖父ちゃんが俺を兄貴の代わりに鍛え上げ様とした事に、俺はなんら不満はない。

 只―――。


□□世良一嘉□□


「…………………………」

 余りにもいい天気なので屋上で昼飯を喰おうとしてパンを買い、屋上に上がってきたら先客が居た。

 一応此処は立ち入り禁止場所なので、余程の事がない限り人の気配はない。

 とはいえ、俺みたいな奴は居る訳だから先客が居ても不思議ではないのだが。

 相手が悪い。

 屋上のコンクリの上で丸まって爆睡してる奴は、入学式の日俺と殴り合いの喧嘩になるとこだった仁科惟弦(にしな いつる)だ。

 なんとなくだが気まずい……。

 別に仁科とは入学式以来揉めた事はないのだが。とはいえ、仲良くなった訳でもない。

 クラスも違うし。廊下で会っても話す事もない。

 なのに周りが勝手に、俺らがしょっちゅう殴り合いの喧嘩をしてるって噂をしてる所為か、俺らが近寄ると周りの空気が一斉に緊張し出すのが判る。

 まあ、な……。余程印象に残ったんだろうよ。入学式の時の掴み合い。

 切欠は実にくだらなかった。

 仁科が俺の足を踏んだんだ。






『ってぇなぁ〜! 何処目ぇ付けてんだぁ〜てめぇーっ!!」』

『悪かったな……』

『あんだぁ〜? その心の籠ってない謝り方はよぉ!』

『……………………』

『なんとか言えよ! 馬鹿にしてんのか!?』

『高校生にもなって……。餓鬼臭い。悪いが付き合う気はないな』

『ああっ!? もう一辺言ってみろやっ!』

『謝ったのにグダグダ絡むなってんだよっ。ケツの穴の小さい男だぜっ! ったくよぉ!!』

『じょぉ〜〜〜とぉ〜〜〜じゃねぇーかっ!』


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