[12]


◇◇池坊拓人◇◇


「羽須美……。俺達、暫く会うのはよさないか?」

 昨日の今日で、女にキスしていた俺を見た揚句こんな事を言われたら、羽須美は切れると思っていた。

 いや、切れて欲しかった。

 でも羽須美は「判った」としか言ってくれなかった。

 なんで? とも どうして? とも訊かない。俺を責めもしない。

 俺はこの瞬間嫌という程教えられた。羽須美が俺を好きじゃない事に。

 暫く遊んでなかった幼馴染みと久し振りに付き合いが再開した事を楽しんでいただけだという事を。

 本当は行き成り新川に呼び込まれて告白をされた揚句、抱き着かれてキスされたのだが、そんな事はもうどうでもよくなった。

 悲しいけれど別れなきゃいけない。

 これ以上羽須美を巻き込まない様に。俺が感情のままに羽須美を疵付けない為にも。

 そう思うのに次の言葉が中々出ない。足も根が生えた様にこの場から離れない。

 その時羽須美が、

「じゃあね。今までありがとう……」

 それだけ言うと俺に背を向け駆け出していった。

 羽須美の背が俺の視界から消えたのに、やはり俺の足はそこから動かない。

 ふと気が付くと俺の頬を伝うものがあった。

「ダッセェー、俺。失恋して泣いてやがるの」

 誰も居ない体育館裏で態と大声を上げて自分をからかう。

 自分で自分を笑う為に。

 でも笑えなかった。

 だって生まれて初めての失恋なんだ。疵付いて当たり前だろ。

 いや違う。

 これが初めての恋だったんだ。

 今までみたいな、ただ異性やエッチだけの興味で付き合ってきた訳じゃなくて、本当に好きだから傍に居たかった。

 本当に好きだからこれ以上傍に居れない。

 これが初恋だったんだ。

 ほんと誰だよ。初恋は実らないって言った奴。

 当たりだよ。大笑いだよな。

 本当に。

 大笑いだ。

 涙が止まらないなんて。ダサくて笑える。

 笑い過ぎて、また悲しくなる―――。

 何時か……。こんな想いも忘れて、羽須美の隣に従兄弟として、ただの幼馴染みとして立てる日が来るのだろうか?

 来るかもしれない。

 でも、今中三の俺にはその日は余りにも遠過ぎる……。


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