[3] ◇◇池坊拓人◇◇ 「拓人達ってば、相変らずラヴラヴじゃん」 自転車の二人乗りのまま校門を潜った処で、俺が所属している剣道部の女主将、新川亜矢(しんかわ あや)が声を掛けてきた。 黙っていればかなりの美人なのに、言葉使いは男そのものだ。一部の男子には“竹を割った性格で付き合い易い”と人気だが、俺は自分の事を“俺”と言う女は苦手だ。 「うっせぇーよ!」 そう怒鳴って無視したら、 「照れるなよ」 と益々絡んでくる。 「朝っぱらから何なんだよ。お前は!?」 俺と新川が言い争ってる間に羽須美は自転車の荷台から降りて、無言で自分の教室に向おうとする。 「拓人。天王寺君先に行っちまったぜ」 新川の言葉に「判ってるよ」とだけ返して羽須美を追った。 ◇◇天王寺羽須美◇◇ 我ながら情けないと思う。 男の癖して余裕無さ過ぎ。 でも……。“男”だからこそ余裕がないんだ。 だって俺は女の子じゃない。 何時か拓人が他の女の子に目を向けるのをずっと恐れていたのは俺だ。 小さい頃からずっと俺の傍に居て、喧嘩もたくさんしたけど、一緒に笑って泣いて、寂しい時は必ず抱き合って眠ればあくる朝には嫌な事なんて忘れてしまう。 独占欲だと言われれば否定できないかもしれない。 だけど、だけどさ。 拓人が女の子と喋ってる時に感じるムカムカや苛々。拓人が俺だけに笑い掛けてくれた時の嬉しさが恋じゃないなんてどうして言える? 初めてこの自分自身でも持て余す気持ちに気付いたのは、中学に入学してからだった。それも自覚するには結構時間が掛かったと思う。 元々運動神経抜群だった拓人は剣道部に入部した。 『なんで剣道部な訳?』 俺の何気無い質問に拓人がちょっと考えてから答えた。。 『ん〜〜〜。本当は空手とかに入りたかったんだけどさ。うちの中学に空手部ないじゃん。かと言って柔道は何となく嫌だし……』 『何それぇ〜? いい加減〜』 笑いながら返す俺に拓人が渋い顔をしながら言った。 『煩いよ。少なくとも漫研のお前よりはもてる部だからいいんだ』 ≪BACK NEXT≫ ≪目次 ≪TOP |