[4] 正直、拓人のこの言葉に少しショックを受けた。 年頃の男の子が女の子にもてたい気持ちは判る。はっきり言って、俺だってもてたい! キャー、キャーなんて言われてみたい。 ……絶対に無理だけど。 自分の顔や姿は、まあ平均だとは思うが、如何せん。頭と運動神経が平均以下だ。 小学校時代に嫌と言う程学んだのは、『男は“顔だけ”の奴なら、頭か運動神経、どちらかに突起していて平均の顔を持ってりゃ充分もてる』という事だった。そしてそれは小学生の頃よりも今、この中学時代の方がより重要なもてるポイントとなる。 剣道部に入部した拓人は、当然小学校の頃とは比べものにならないくらい女の子と接する機会が増えていく。 剣道部の女子マネにタオルを渡して貰ったり、剣道部やクラスの女子達と放課後お茶したり、試合の時に差し入れを貰ったり。最初の頃は拓人がもてる事自体が面白くないのだと思っていた。 だけどそうやって拓人との時間がずれていくと、同じマンションに住んで同じ学校に通っているにも関わらず、顔を会わす機会がなくなっていった。 小さい頃と違ってどっちが親か判らない様な、一緒くたの育て方がなくなった所為もあって、殆ど拓人とは口をきかないまま中一を終えた春休みの最中だった。 『久し振り。羽須美。お前、背が…………全然伸びてないな……』 母さんに頼まれて小芋の煮っ転がしとやらを(俺は小芋は嫌いだから食べない)拓人ん所へ持って行ったら、珍しく奴は家に居た。 『煩いな。拓人だって、そんな伸びてないだろ?』 何故か久し振りに拓人の顔を見て、俺の心臓が早鐘の様に煩く鳴り響く。 『何処がだよ。この一年で5cmも伸びたんだぜ。未だに毎晩足の関節辺りが痛くて、夜眠れないつーの』 そう言って顔を顰める拓人の顔がやたらと格好良く、大人っぽく見える。 どうしたんだ。俺は? 拓人に、ってか男に見蕩れるなんて絶対変だ! そう思ってサッサと小芋の小鉢を拓人の手に押し付けて戻ろうとした時、 『羽須美。お前、この後とか時間ある? 映画観に行かねぇ』 と拓人に言われた。 『へ?』 多分……。思いっ切り間抜けな返事と顔をしたと思う。 ≪BACK NEXT≫ ≪目次 ≪TOP |