[5]


『約束してた子が駄目になってさ』

 不満気にぼやく拓人に、

『あんだよ。彼女の穴埋めを俺にさせ様というのかよ』

 そう思いっ切り面白くなさげに返していたけど、実はこの時の俺の心臓は目の前の拓人に聞かれるんじゃないかというくらいドキドキしていた。

『ばぁ〜か、彼女の穴埋めをお前に頼むか。チケットが今日までで勿体無いから、誘ってんの』

 そして思いっ切りへこむ。

 そりゃそうだよな。俺が彼女の代わりになる訳がない。

 へこんだ俺を見て拓人がどう思ったかは知らないが、

『映画代払えなんてセコイ事は言わねぇから、行こうぜ』

 と言われて、『当たり前だ。ばぁ〜か』と返しながら一緒に映画を観に出掛けた。

 それが二人で初めてちゃんと出掛けた日となった。

 今までは小学生だった所為もあって、映画等は当然俺と拓人とお互いの母親が一緒になる。

 遊園地も海も拓人と一緒に行った事はあるが、それは“拓人と”ではなく、拓人の家族と俺の家族とでだ。

 小学校5〜6年になれば流石に近所のゲームセンターや本屋くらいは二人で出掛けたが、こんな風に電車に乗って二人きりで出掛けるなんて事は初めてだ。

 なんだかそれを考えただけでもドキドキする。

 だけど拓人にとってはそれはもう当たり前の事で、当然その時のお相手は俺ではない事が凄く寂しかった。

 映画は面白かった。

 映画の後に入った某ハンバーガーショップでも、あれやこれやと観て来た映画の内容について語り合う事が止まらなかった。

 その後もゲーセンに行ったり本屋で立ち読みしたりして、久々に二人だけの時間を満喫した。

『やっぱ羽須美と一緒の方が気も使わねぇーし、楽しいわ』

 拓人は何気無く言ったんだろう。

 だけど俺は。

『嘘ばっかり。全然逢えなくても平気だった癖に……』

 つい、本音が漏れてしまった。

 一瞬拓人が俺の顔をマジマジと見る。それから吹き出した。

『お前さぁ〜、何その科白。先週女に言われた科白、まんまだぜ』

 こう言われて恥かしかったのか腹が立ったのかは判らない。ただ頭の中がカッとなり、気が付いたら叫んでいた。

 自分でも思ってもみなかった事を。


≪BACK  NEXT≫
≪目次
≪TOP