[6] 『わ、悪かったなっ! 俺は拓人と逢えなくて寂しかったんだよ! 何か文句あんのかよ!?』 殆ど逆切れの俺の目の前には大きく目を見開いた拓人の顔。 その顔を見ているうちに自分がとんでも無い事を叫んだ事に気付いて走り去ろうとした俺の右手首が拓人に取られた。 『逆切れ告白なんて初めてだぜ』 拓人の俺の顔を見る瞳は、好奇心に溢れていたと思う。 『こ、告白ぅ〜?』 拓人の言葉に焦る俺に、まるで言い聞かせるみたいに拓人が語り掛けてくる。 『何だよ。違うのかよ? 俺に逢えなくて寂びしかったって事は、俺にずっと逢いたかったって事だろう?』 確かにその通りだ。だけど拓人は違うんだろう? 『俺に逢えない間、寂しくて泣いていた? 羽須美』 本当は気付いていたのかもしれない。拓人の甘い声の中に好奇心が含まれていたのを。 『泣く訳ないだろう。餓鬼じゃあるまいし』 そう強がって返す俺に拓人がおかしそうに笑う。 『そうやって強がる処は変わってないよな。怖がりで泣き虫な癖して、直ぐに突っ張るんだ』 子供の頃の一年はでかい。 たった一年、拓人と接しなかっただけなのに、 『なあ、俺の事独占したいか? 羽須美。俺にお前の事独占する権利をくれたら、俺もお前のものになってやるよ』 拓人がこんなに“大人の男”になっていたなんて。 どうするって感じで俺の目を覗き込んできた拓人に、俺は頷く事しかできなかった。 それから俺達の付き合いが始まった。 付き合いと言っても、それは恋人同士のお付き合いというよりは、ちょっと“仲の良過ぎる友達同士”って感じだ。 俺は拓人の倶楽部が終わるまで漫研の部室で漫画を読んで時間を潰す。拓人もそれまでは女の子と帰っていたのを俺と帰る様になる。 朝も拓人に朝練がない時は一緒に登校して、休みの日も拓人に倶楽部が無い日は―――、もとい拓人が倶楽部をさぼって一緒に遊びに行く。 ただその合間にほんの少しだけ軽いキスが入る。 キスと言っても本当に唇に触れるだけの軽いやつだ。 俺が照れて怒鳴ったり固まったりする所為で、拓人もそれ以上は仕掛けてこない。 ≪BACK NEXT≫ ≪目次 ≪TOP |