[8]


◇◇池坊拓人◇◇


「もう、駄目っ! 厭きたぁ〜」

 飽き性の羽須美がシャーペンを放り出し俺の部屋の床に大の字になって寝転ぶ。

「羽須美! 補習を受けるのはお前なんだぞ」

 別に羽須美は頭が悪い訳じゃないと思うが、兎に角集中力が足りない。

 早い話が直ぐ厭きて放り出すのだ。

 この間も科学のテストで赤点を取り、今度の小テストで点を取らないと放課後は補習になると泣き付いてきたのは自分の方なのに、こうやって途中で投げ出してしまう。

 羽須美は寝転んでいた体制から四つん這いになり、そのまま俺のベッドへと這いずって行き、ベッドの上に置いてあった俺の漫画を読み出した。

「羽須美っ!」

 声を荒げた俺の方には目もくれないで、今はもう漫画に夢中だ。

 その集中力を勉強に活かせないのか?

 しかも羽須美は気付いてないんだろうけど、着ているトレーナが捲れ上がって腹が見えてるんだよな。

 俺もさ、経験豊富―――とまではいかないにしても、それなりに女の子と遊んできたし、実はエッチも経験済だ。

 確かに女の子と遊ぶのは楽しい。エッチも気持ち良かった。

 でも何時も違和感が付いて回ったんだよな……。

『こんな時、羽須美ならどうすんだろ?』とか、『こんな時、羽須美ならどう言うだろう?』とか。

 何時も何処かで女の子と羽須美を比べていた。

 でもそれは、産まれる前から傍に居て、誰が誰の家族か判らない様な育て方をされ、何時も傍に居るのが当たり前みたいな存在が、中学生になって急に顔を合わす事すらなくなった寂しさ、というか、違和感からきているものだと思っていた。

 だから羽須美に『逢えなくて寂しかった』みたいな事を言われて正直嬉しかった。

 ああ、こいつも俺の事覚えててくれたんだって。

 人が聞いたらなんてオーバーな科白だと思われるかもしれないが、事実、小学校低学年の時に親しくしていた友達だった筈の奴らと、今は遊ぶ事はない。

 確かにクラスが別れても親しくしてる奴らも居るよ。

 近所の幼馴染みと遊びに行く奴も居るだろう。

 だけど大半の奴らが“今”が一番重要になる。


≪BACK  NEXT≫
≪目次
≪TOP